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細胞外フラックスアナライザー XF Pro / XFe24

複合領域・汎用心血管領域神経科学領域腫瘍・がん研究

免疫研究における細胞代謝解析

2010年代に伝統的な免疫学と代謝の境界領域として登場した免疫代謝学 (Immunometabolism) は、現在ではがん免疫療法にも深く関連する重要な研究分野として注目されています。

この免疫代謝学の始まりにおいて非常に大きな役割を果たしたのが Agilent Seahorse XFテクノロジーです。XFは免疫細胞の代謝変化をリアルタイムに測定することで、従来のエンドポイントアッセイでは捉えられなかった免疫細胞の代謝表現型を定量的に分析・理解することが可能です。

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XFは増殖する免疫細胞の生体エネルギー表現型をモニターする



近年、免疫細胞はその分化の過程で代謝表現型を大きく変化させることが明らかになってきました。例えば、Naïve T細胞は静止した代謝表現型を持ち、低い解糖能を示しますが、抗原により活性化してエフェクターT細胞に分化すると解糖能が上昇、そして炎症が収まりメモリーT細胞に分化すると再び解糖能の低下を示します (Van Der Windt GJ, et al. 2012)。活性化したT細胞では増加するエネルギー需要を主に解糖に依存していること (右図、XF ATP Rateアッセイ)、炎症性のM1マクロファージではエネルギー産生の多くを解糖に依存した代謝表現型を示すのに対し、抗炎症性のM2マクロファージでは主に酸化的リン酸化に依存した代謝表現型を示すことなども明らかになっています。

Mitochondrial respiratory capacity is a critical regulator of CD8+ T cell memory development, Van Der Windt GJ , et al., Immunity. 2012 Jan 27;36(1):68-78.

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異なる共受容体を持つCAR-T細胞の代謝解析により、代謝とCAR-T細胞の持続性の関係を明らかにした事例

キメラ抗原受容体 (CAR) は、T細胞のがん細胞に対する細胞傷害性を誘導し、がん免疫療法に有望なアプローチを提供します。しかし、CARの共刺激ドメインの特性が、CAR T細胞の持続性や枯渇への耐性にどのような影響を与えるかは、ほとんど明らかにされていませんでした。Kawalekar (2016) らは、共受容体CD28と4-1BBのシグナル伝達ドメインがヒトCAR T細胞の代謝特性に与える影響について調査した実験の中で、XFを用いた代謝解析を行いました。



Figure:OCRのプロファイルは、0日目の抗原刺激前には同様であった。抗原刺激後、7日目と21日目には、両グループのT細胞の基礎OCRが約10倍に増加していた。しかし、7日目と21日目にFCCPを用いてミトコンドリア膜を脱共役すると、BBζ CAR T細胞に特異的な最大呼吸の増加が見られた。一方、28ζ CAR T細胞の7日目と21日目の最大呼吸は0日目とほぼ同じであった。また、28ζ CAR T細胞では、BBζ CAR T細胞と比較して、7日目と21日目にECARレベルが上昇した (data not shown)。



この研究では更に、CAR構造に4-1BBを組み込むと、呼吸能だけでなく、脂肪酸酸化、ミトコンドリア生合成が著しく向上したCD8+セントラルメモリーT細胞の派生が促進されること、一方、CD28ドメインを持つCAR T細胞では、解糖系の強化と一致する遺伝子シグネチャーを持つエフェクターメモリー細胞が得られることを示しました。これらの結果は、4-1BBまたはCD28シグナルドメインを発現するCAR T細胞の臨床試験における持続性の違いについて、少なくとも部分的にはそのメカニズムを解明し、将来のCAR T細胞療法の設計に役立つものとなりました。

Distinct Signaling of Coreceptors Regulates Specific Metabolism Pathways and Impacts Memory Development in CAR T Cells Kawalekar et al. (2016) Immunity. 44: 380-390. より適応

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NK細胞の代謝解析により、NK細胞の応答メカニズムを明らかにした事例

ナチュラルキラー (NK) 細胞は、重要な抗腫瘍機能を持つリンパ球です。サイトカインによるNK細胞の解糖と酸化的リン酸化 (OXPHOS) の活性化は、強力なNK細胞反応に不可欠です。しかし、このような代謝表現型に至るメカニズムは不明でした。Loftusら (2018) は、アミノ酸で制御される転写因子cMycがマウスNK細胞の代謝・機能応答に必須であることを明らかにした研究の中で、XFによるマウスNK細胞の代謝解析を行いました。


Figure:XF は、(BPTES を介した) グルタミン分解阻害ではなくグルタミン枯渇がIL-2/IL-12 サイトカインによって促進されるNK細胞応答を弱めることを示し、NK細胞の応答におけるcMyc 発現のメカニズムを明らかにした。

Amino acid-dependent cMyc expression is essential for NK cell metabolic and functional responses in mice
Róisín M. Loftus et al., Nat Commun. 2018. 9 (1): 2341., DOI: 10.1038/s41467-018-04719-2 より適用

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免疫抑制作用のある腫瘍関連マクロファージの代謝プロファイルの計測

免疫抑制性の腫瘍微小環境 (TME) は、効果的な免疫療法の大きな障壁となっています。腫瘍関連マクロファージ (TAM) は、腫瘍の進行を促進する (M2様マクロファージ) ことも抗腫瘍免疫を増強する (M1様マクロファージ) こともできる、異成分から成る可塑性のTMEの構成細胞です。Rodriguez-Garciaら (2021) は、葉酸受容体β (FRβ) を発現するTAMのサブセットが免疫抑制的なM2様プロファイルを持つことを明らかにする実験の中で、XFを用いてFRβ-とFRβ+のTAMの代謝プロファイルを調べ、FRβ+のTAMが酸化的代謝のM2表現型と一致することを示しました。


Figure 1:FRβ+ TAMはM2様のプロファイルを示す。
酸素消費速度 (OCR) は、ベースラインではFRβ-とFRβ+のTAMで同程度であったが、脱分極条件下では、FRβ+のTAMのOCRが有意に高く、エネルギー生成能力の向上と一致していた。


Figure 2:FRβ+TAMをLPS (免疫細胞の強力な活性化因子) 存在下で培養すると、最大OCRはM1様のFRβ-TAMと同程度のレベルまで低下した (B)。一方、IL-4 (マクロファージをM2表現型に分極させるために一般的に用いられる) を添加すると、逆に両集団の最大OCRが増加した (C)。

また、FRβ-とFRβ+のTAMsでは、細胞外酸性化速度 (ECAR) に有意な差は見られないこと、ミトコンドリア質量・ミトコンドリア膜電位は同様のレベルであったことも確認されました (data not shown)。以上の結果から、FRβ+ TAMの代謝能力の向上は、予備呼吸能の増加に起因し、刺激条件下での高い酸素消費能力に支えられていることが示唆されました。

本研究ではさらに、同系腫瘍モデルマウスでキメラ抗原受容体 (CAR) T細胞を介してTME内のFRβ+TAMを選択的に除去すると、炎症性単球が増加し、内因性の腫瘍特異的CD8+T細胞が流入し、腫瘍の進行が遅れ、生存期間が延長されること、また、FRβ特異的なCAR-T細胞でTMEをプレコンディショニングすると、腫瘍を標的とする抗メソテリンCAR-T細胞の効果が向上するが、両CAR製品を同時に投与しても効果はないことも証明しました。これらの結果は、TMEにおけるFRβ+TAMの原始的な役割と、腫瘍抗原を直接標的とする従来の免疫療法の準備的な補助としてのTAM除去剤の治療的な意義を強調するものとなりました。

Reference: CAR-T cell-mediated depletion of immunosuppressive tumor-associated macrophages promotes endogenous antitumor immunity and augments adoptive immunotherapy
Alba Rodriguez-Garcia et al., Nat Commun. 2021 Feb 9;12(1):877. doi: 10.1038/s41467-021-20893-2.

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間葉系幹細胞(MSC)の免疫抑制活性と解糖依存性の代謝の関連を明らかにした事例

間葉系幹細胞 (MSC)は、その強力な免疫制御能力により、炎症性疾患に対する有望な治療ツールです。その抑制作用は主に炎症性の合図に依存しており、最近ではMSCの生体エネルギー状態を解糖系に変化させることと関連していることが知られてきています。

Contreras-Lopezら (2021) は、オリゴマイシンを介して解糖系のスイッチを入れたMSCはin vitroでの免疫抑制効果を著しく高めること、逆に、2DGを阻害するとMSCの免疫抑制効果が著しく低下することを示した実験の中で、MSCの代謝プロファイルの解析にXFを用いました。さらにこの研究では、in vivoではMSCの解糖系リプログラミングにより遅延型過敏症 (DTH) および移殖片対宿主病 (GVHD) マウスモデルでの治療効果が大幅に向上すること、MSCの解糖系スイッチ効果は、AMPKシグナル経路の活性化に一部依存していることを実証しました。


Figure 1:炎症性サイトカイン (TNFα、TNFγ) で24時間インキュベートしたMSC (オレンジ色) またはインキュベートしなかったMSC (黒) の代謝プロファイルを、XFを用いて (A) 酸素消費速度 (OCR) (B) 培地の細胞外酸性化速度 (ECAR) (C) ECAR/OCR比を測定することで評価した。


Figure 2:MSCにおいて、オリゴマイシンと2DGは、炎症性サイトカイン刺激時に観察される代謝スイッチを再現または阻止する、相反する代謝プロファイルを誘導する。
コントロールMSC (黒) または2DG (黄) またはオリゴマイシン (赤) で24時間インキュベートしたMSCの代謝プロファイルを、XFを用いて (A) OCR、(B) ECAR、(C) ECAR/OCR比を測定することで評価した。

Reference: The ATP synthase inhibition induces an AMPK-dependent glycolytic switch of mesenchymal stem cells that enhances their immunotherapeutic potential
Contreras-Lopez R. et al. Theranostics. 2021 Jan 1;11(1):445-460. doi: 10.7150/thno.51631. eCollection 2021.

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Webinarオンデマンド:免疫細胞の生体エネルギー代謝を中心とした次世代の細胞治療法の開発



[Webinarオンデマンド配信 ] ライブ実施日時:2021/11/26

2010年代に伝統的な免疫学と代謝の境界領域として登場した免疫代謝学(Immunometabolism)は、
現在ではがん免疫療法にも深く関連する重要な研究分野として注目されています。

この免疫代謝学の始まりにおいて非常に大きな役割を果たしたのが Agilent Seahorse XFテクノロジーです。

XFは免疫細胞の代謝変化をリアルタイムに測定することで、従来のエンドポイントアッセイでは捉えられ
なかった免疫細胞の代謝表現型を定量的に分析・理解することが可能です。

本セミナーでは、免疫代謝学やCAR-T細胞の開発における様々なケーススタディを交えながら、
XFテクノロジーのパワフルな解析力と、研究者の皆様に優れたソリューションを提供する各種キットを
ご紹介します。

Keywords:
免疫代謝、免疫腫瘍学、CAR-T細胞、ミトコンドリア呼吸

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